ペット問題の分析・ペットとは何か・自己中心性の構造分析

2-1 ペットとは何か

2-2 ペットにまつわるイメージ

2-3　イメージだけでは見えてこない「事実」に出会うとき

2-4　自己中心性の構造分析―一方的なかかわり方の仕組み―

←この画面をクリックするとスライドが拡大されます

　まず、ペットとは一体どのような存在なのでしょうか。伝統社会における家畜と比べてみますと、家畜は、個人もしくは一集団に属しながらも、共同体を成り立たせる生産力として、彼らと生活を共にしていました。別の言い方をするなら、家畜は個人を越えて地域社会に属する要素を強く持っていると考えられます。

　一方ペットでは、純粋に個人の愛玩の対象という側面が大きくなってきます。つまり、ペットは家畜のような社会に属する要素よりも、飼い主個人に属する要素を強くもっています。

　また、ペットは家畜とは違い、生産の必然性がありません。つまり、家畜は社会的な生産システムの只中に存在するものですが、ペットはそのような生産システムから外れた最終的な商品（end products）として位置づけられます。そのために、ペットという最終的な商品を消費するだけに陥る危うさがあり、飼い主（＝消費者）にペットの運命のすべてがゆだねられることになってしまうのです。

←この画面をクリックするとスライドが拡大されます

　ペットはある一定のイメージをまとっています。「かわいい」「純粋」「安らぎ・癒し」「家族の一員」など。さまざまな広告やビジネスの場面で、これらのイメージは前面に押し出され、ますます強められていきます。そしてその影で、ペットの本来の生き物としての事実が忘れられ、事実よりもイメージを求めてペットを購入する人の増加を促していきます。

←この画面をクリックするとスライドが拡大されます

　ペットのイメージだけを求める飼い主が、イメージに覆い隠されている「事実」を目の当たりにしたとき、どのようなことが起こるのでしょうか。ペットの「生き物としての事実」は、飼い主の求めているペット像ではありません。しかし、ペットを飼う際には常にわずらわしい出来事がともなっています。このような飼い主の望まないわずらわしさと、ペットのイメージとのギャップが、飼育放棄や虐待を生む危険性をはらんでいます。

←この画面をクリックするとスライドが拡大されます

　このように考えてみますと、飼育放棄の原因は、ペットに対する一方的思い込み、つまり人間の自己中心的な関わり方から生じていることがわかります。では、その自己中心的なかかわり方はどのようなプロセスによって成り立っているのでしょうか。

　まず、ペットに対する思い込みは、ペットを自分の欲望を満たすための手段として、思い通りにしようとします。しかし、自分にとって都合が悪かったり、不利益が生じると、その存在・関係を排除しようとします。ペットを捨てたり、保健所へ引き取ってもらったりすることによって、自分の目の見えないところへ持っていき、簡単に自分の責任からペットを外そうとするのです。

　このような一方的・自己中心的な姿勢は、ペットへの関わり方だけでなく、自然や他の人間への接し方にも共通する倫理的な問題であると言えるのではないでしょうか。

←この画面をクリックするとスライドが拡大されます

　この自己中心的な関わり方を、「人と人の関係」で見てみますと、例えば、そもそも親というのは、子どもに衣食住を提供し、必要なときにはお金を出してくれるだけの存在でしょうか。しかし、親を自分の都合のいいように利用し、老後に親の世話をする必要が生じたときでさえそれを面倒と感じる人は、老人ホームへ入れることによって親との関係や責任を遠ざけることになるのです。

←この画面をクリックするとスライドが拡大されます

　次に、自然に対して見てみますと、生態系のバランスを損なうほど大規模に改変することによって資源として利用し、消費活動の結果（ゴミや排気ガスの問題など）深刻な環境問題が起こったとしても、自然への操作を押し通そうとすれば、自然との関係をあえて覆い隠そうとすることさえ生じるのです。

←この画面をクリックするとスライドが拡大されます

　もちろん、人・動物・自然との関係は、次のような意味では違いをもっています。ここでは、人・動物・自然の相互関係を、「同心円的」な関係の中で見てみましょう。

　①もっとも身近な人との関係においては、言語を通じてコミュニケーションをとることができ、その関係は双方向的なものであるといえます。

　②しかしそれとは反対に、自然との関係は遠く、人間が何をしても自然は無言の反応を見せるのみです。

　③人と自然の間にある動物は、ある程度コミュニケーションをとることはできるとしても、動物の全てを理解することはできません。その意味で、動物は人と自然の間の中間的な存在として、自然への橋渡しという意味をもっているということができます。

　このように見てみますと、ペット問題は単なるペットだけの問題ではありません。ペット問題は、まさに「人と人」、「人と自然」との関係を含んだ、人間をとりまく関係全体の中で捉えることを必要としているのです。

目次へ戻る|HOMEへ